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岩手大発の高い転移温度を示す低次元超伝導体の合成と放射光による構造の解明

掲載日2024.03.26
最新研究

理工学部 物理?材料理工学科 数理?物理コース
教授 松川倫明
材料科学?物性物理学

概要

岩手大学大学院理工学専攻羽川征秀さん、新沼広大さん(修士課程在籍、指導教員:松川倫明教授)らの研究グループは、岩手大学発の低次元超伝導物質の良質試料の合成に成功し、超伝導転移温度30K及び臨界磁場45Tの高い超伝導特性を示すことを見出しました。また、Spring8での放射光による超伝導試料のリートベルト構造解析を行い、超伝導を発現する2重鎖間の距離がキャリアドープとともに短くなることを発見しました。本研究成果は、2024年3月13日に日本物理学会発行の国際的学術雑誌J. Phys. Soc. Jpn. (オンライン版)に公開されました。

背景

1911年オランダの物理学者オンネスにより発見された金属系超伝導体は3次元的な特徴を示し、1986年べドルツとミューラにより発見された銅酸化物系超伝導体は2次元的な性質を示すことが知られています。2004年に岩手大学で発見された超伝導体は1次元の特徴を有する世界初の低次元銅酸化物超伝導体でしたが、超伝導特性に課題がありました。また、超伝導試料に関して精密な構造解析は実施されていませんでした。(岩手大学発の一次元超伝導銅酸化物については、学部生向けの「超伝導」の教科書(物理?材料テキストシリーズ、2022.7発行、小池洋二著、内田老鶴圃)に紹介されています。)

研究内容

この超伝導体の特徴は、CuO金属二重鎖が超伝導を発現する擬一次元超伝導体であり、銅酸化物として世界初の発見であり、その超伝導機構の解明の研究が進められています。
本研究では前駆体から良質な超伝導試料を作製するために、精密に温度制御可能な3ゾーン電気炉を試料合成に使用し、超伝導化するための熱処理条件を改良する実験を繰り返しました。高磁場での超伝導特性を調査するために東北大学金属材料研究所?強磁場センターの超伝導マグネットを使用しました。さらに、CuO金属二重鎖を構成する銅と酸素の原子間距離などの詳細な構造解析を実施する必要性から、大型放射光施設(Spring 8ビームラインBL02B2)を利用しました。

研究成果

岩手大学発の低次元超伝導物質の良質試料の合成に成功し、超伝導転移温度30K及び臨界磁場45Tの高い超伝導特性を示すことを見出しました。また、Spring8での放射光による超伝導試料のリートベルト構造解析を行い、超伝導を発現する2重鎖間の距離がキャリアドープとともに短くなることを発見しました。さらに、磁気抵抗の測定結果から、磁場印加により電気抵抗の遷移幅が急に広がる現象が観測され、超伝導の磁束状態が従来の超伝導体とは異なり、熱力学的な相転移ではないことが示唆されました。

今後の課題

今回の超伝導試料は良質ではありますが多結晶なので薄膜化や単結晶化が望まれます。また、磁場を印加したときの超伝導状態(磁束混合状態)の相図(物理的状態)を明らかにします。

掲載論文

題目:Crystal Structures and Superconducting Properties of Metallic Double-Chain Based Cuprate Pr2Ba4Cu7O15?δ
著者:Masahide Hagawa, Michiaki Matsukawa, , Kota Niinuma, Reiya Kudo1, Yuto Mizushima, Naohisa Kawarada, Hajime Yamamoto, Kazuhiro Sano, Yoshiaki ?no, and Takahiko Sasaki
雑誌名:J. Phys. Soc. Jpn., Vol.93, No.4, Article ID: 044705
https://doi.org/10.7566/JPSJ.93.044705
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用語解説

  • 超伝導体
    電気抵抗がゼロ抵抗状態を示す特性の物質(リニア新幹線の磁気浮上に応用)
  • 金属二重鎖銅酸化物
    銅原子と酸素原子からなる二本の鎖状の部分がよく電気を通す物質
  • 磁気抵抗効果
    外部磁場を超伝導物質に印加すると、電気抵抗が生じる効果
本件に関するお問い合わせ

理工学部 物理?材料理工学科 数理?物理コース
教授 松川 倫明
019-621-6358
matsukawa@iwate-u.ac.jp